弁護士 奧野舞のブログ

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【医業関連】医師の転送義務

クリニックにおいては,常にそのクリニックの設備の中で患者の検査・診療を全て賄えるケースばかりではありません。

 

ときには,クリニックの医師の専門外の患者も来院しますし,専門分野であっても,自分のクリニックでは十分な治療が出来ない場合もあります。

医師は,その都度「自分のところで手におえない患者を適切に転送させる」必要が出てきます。これを転送義務(転医義務)といいます。

 

転送義務の内容について,参考になる裁判例を紹介します。

 

大阪地裁平成9年3月7日判決では,開業医の転送義務(※裁判例では「転医指示義務」と表現されています。)について,下記のような判断がなされています。

 

「…医師等は,診断義務の一環として,当該患者の症状を診断・治療する具体的な能力が不足していたり,必要な検査・治療の設備等を有していない場合,そのことが判明した段階で直ちに,右患者に対し,専門医や設備の完備した病院において速やかに受診するよう指示する義務を負っている。」

 

「そして,医師等は,右患者に対し,有効・適切な医療措置を受けることができるように,当該症状を診断できる能力や設備等を具備する病院名等を具体的に示し,必要に応じて紹介状を交付するなどしなければならないというべきである。」

 

この裁判例の記載ぶりからすると,もし医師が自分のクリニックでは手に負えないと判断したときには,「一応,他の大きな病院でも診てもらった方がいいですよ。」といった言葉をかけるだけでは,医師としての転医指示義務を果たしたことにはならず,「たとえば〇〇病院は検査設備も整っているし,ここで診てもらってください。紹介状を書いておきましょう。」…という対応がなされていれば,転医指示義務違反を問われることもなかったでしょう。

 

上記の裁判例のケースでも,実際には医師が患者に対して「悪化するようなら,大きな病院で診てもらいなさい。」と述べていたようですが,裁判所はこの医師について,「十分な診断ないし転医指示を行ったということは到底できない」と判断しています。

 

こうした判断の背景には,やはり「医師=専門家」「患者=素人」という構図のもとでは,「患者が最大限医師の言葉をくみ取って,慎重に慎重に対応し,医師の診断結果を踏まえて自らセカンドオピニオンを聴きにいくべきであって,それをしなかった患者について後に悪い結果が生じたとしても,それは患者の自己責任である」,という考え方がまかり通ってしまうと,専門知識を持っていない患者側にあまりに酷である,との価値判断があるように思います。

 

「お医者さんが念の為大きな病院で診てもらうようにと話したから,すぐにでも行ってみよう。」と考える患者もいれば,「念の為だと言っていたし,そんなに大事にはならないだろうから,しばらく様子を診ていればいいか。」と考えるか,これはそれぞれの患者の受け止め方次第であって,全ての患者が,医師のその時々の言葉や懸念事項を,医師と同じくらいの重みで受け止めて理解してくれるとは限りません。

 

 

 

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