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弁護士 奧野舞のブログ

弁護士法人シティ総合法律事務所(http://www.city-lawoffice.com/)

【労働】パワーハラスメントについて①

労働

少し前に,パワハラに関する基礎的な研修をさせていただきまして,いい勉強のきっかけを戴きました。

 

研修の内容に関連する内容を,何回かにわかってまとめてみたいと思います。

 

近年,すっかり「セクハラ」「パワハラ」という言葉が誰でもなじみのある言葉になっていますが,正確に定義を頭に入れている方はどのくらいいらっしゃるでしょうか。

 

パワハラについては,厚生労働省に「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ(WG)」というところが定義を定めています。

「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」です。

 

行為類型は,大きく下記の類型に分かれます。

①暴行・傷害,②脅迫・名誉毀損等,③無視・仲間外し,④業務上不要なことの強制,仕事の妨害,⑤業務の合理性なく能力・経験とかけ離れた仕事を命じること等,⑥私的な事項に過度に立ち入ること,etc…

 

①②については,パワハラ民法上の不法行為(民709条)として問題となるだけでなく,刑法上の犯罪として刑事告訴される可能性もあります。

 

特に①の暴行については,どこまでが「暴行」と言えるのかについて,民法・刑法で概念が大きく異なるということではありません。

ですから,「相手がいる方向に物を投げつける(相手に直接当たらなかった場合)」だけでも,相手の身体に危険を及ぼしうる行為であれば,民法上も刑法上も問題になりえます。

 

②の名誉毀損については,上司が部下に対して行った厳しい言動等が名誉毀損に当たるかが問題となることが多いです。

 

上司が,なかなか思うように成果を上げない部下に対して叱咤激励・指導の一環として行った言動について,名誉毀損に当たるか否かの判断が1審・2審で分かれたケースがあります。

 

上司が部下に対して送信した「意欲がない,やる気がないなら,会社を辞めるべきだと思います。」,「会社にとっても損失そのものです。」「あなたの給料で業務職が何人雇えると思いますか。」等と記載されたメールを送信した事実が名誉毀損に当たるとともに,業務上の指導の範囲を逸脱したパワハラ行為に当たるとして,慰謝料請求がなされた事案です。

 

以下,裁判例の判決文を抜粋して引用しながら,判断の分かれ目を考えてみます。

(以下,パワハラを受けた従業員をX,その上司をYとして説明します。)

 

東京地裁平成16年12月1日判決】

「本件メールは,上司の叱責としては,相当強度のものと理解でき,これを受ける者としては,原告に限らず,相当のストレスを感じることは間違いない。しかし,この表現だけから直ちに本件メールが業務指導の範囲を逸脱したもので,違法であるとするのは無理がある。」

「本件メールを送信したことが,Yの私的感情に基づくと認められる証拠はなく,その経緯に照らせば,Yが組織の責任者として,課長代理にあるXに対し,その業務成績の低下防止のため奮起を促す目的で本件メールを送信したことは十分に首肯できる。」

 「Yの本件メールは,Xに対する業務指導の一環として行われたものであり,私的な感情から出た嫌がらせとは言えず,その内容もXの業務に関するものにとどまっており,メールの表現が強いものとなっているものの,いまだXの人格を傷つけるものとまで認めることは出来ない。」

 

 

以上のように,第1審では,Yのメールは名誉毀損にもパワハラにも当たらないとの判断がなされました。

 

この事案の経緯や事実を詳しく見ると,Yが理由もなくいたずらにXに対して厳しい内容のメールを送信したのではなく,Xの業務成績を指摘する内容に加えて上記の各メールを送信していたことを捉えて,人格侵害とまでは評価できないとの結論に至ったのだと思います。

 

 

東京高裁平成17年4月20日判決】

上記のケースが,第2審でどのように判断されたかというと・・・

「…人の気持ちを逆なでする侮辱的言辞と受け取られても仕方のない記載などの他の部分ともあいまって,Xの名誉感情をいたずらに毀損するものであることは明らかであり,上記送信目的が正当であったとしても,その表現において許容限度を超え,…不法行為を構成する。」(←名誉毀損に当たる,と認定。)

「本件メールが,…Xの名誉を毀損するものであったとしても,その目的は,Xの地位に見合った処理件数に到達するようXを叱咤督促する趣旨であることがうかがえ,その目的は是認することが出来るのであって,Yにパワーハラスメントの意図があったとまでは認められない。」(←パワハラに当たらない,と認定。)

 …と判断されています。

 

名誉毀損について1審との評価が分かれた点としては,YからXに充てたメールの記載ぶりが,前後の文脈と合わせて読んだときに,Xに対する退職勧告ともXが会社にとって不必要な人間であるとも受け取られかねない表現になっていたとして,叱咤激励・指導の表現として許容範囲を超えている,と評価されたことが挙げられます。

(※この他,Yがメール内でXを非難する内容の箇所について,赤文字でポイントを大きくして記載していた(←こんな風に),といった表現形式も問題視されていました。)

 

上記の事例のように,上司から部下に対し指導・叱咤激励の目的でなされたメールや発言は,それが単なる人格攻撃ではなく部下の業務成績に裏付けられた厳しい指導・指摘のつもりであったとしても,無用に辛辣な言葉を使ったり,その表現形式・指摘の頻度等によっては,叱咤激励の域を超えて,Xの社会的評価を低下させる名誉毀損行為に当たると判断される可能性があります。

 

また,1つの言動について,名誉毀損パワハラの該当性が両方問題とされた場合には,両方に該当する・しないといった統一的判断がなされるとは限らず,名誉毀損の該当性とパワハラの該当性が,それぞれ判断される(上記の東京高裁の事例のように,名誉毀損に当たるけれど,パワハラではないという結論もありうる。)点にも留意が必要です。 

 

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