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弁護士 奧野舞のブログ

弁護士法人シティ総合法律事務所(http://www.city-lawoffice.com/)

【労働】定額残業代は使用者のメリットになるのか②

労働

前々回の記事の続きです。

 

 割増賃金相当分を基本給の中に組み込んで定額で支給している会社の場合,割増賃金に当たる部分が明確に区分されている必要がある,という話をしました。

 

ところが,例外的に上記の区分が明確になっていなくても,割増賃金相当分の定額払いの合意が有効と判断された裁判例もあります。

 

東京地裁判決平成10年7月27日

東京地裁判決平成17年10月19日

 

①の理由としては,ウエイターとして働いていた労働者が,店舗の営業時間後の後片付けを含む実労働時間について割増賃金の支払を請求したところ,使用者側は「基本給40万円の中に割増賃金分も含まれている」として割増賃金支払義務が発生していないと主張したものです。

 

①のケースで裁判所は,

・原告(労働者)の1日の勤務時間は午後5時から翌午前2時までであるにもかかわらず,原告が午後10時以降の深夜の割増賃金の支払を求めていないこと

・原告と同時に入社した別の社員は,「ウエイターにしては月額40万円の賃金は高いなと思ったこと

・被告(使用者)は,午後10時以降の割増賃金も含めて原告の賃金を定めたと主張していること

以上を理由として,原告・被告は本件労働契約締結の際,午後10時以降の深夜の割増賃金も含めて原告の基本給月額を40万円とすることを合意した,と認めました。

 

結局,当該労働者に対してその労働に見合った対価が支払われているかを考えたときに,支給総額40万円で実質的に割増賃金分が支払われていると判断されたことで,割増賃金相当分の明確な区分がなくてもよいという結論になりました。

 

②のケースは,

・原告(労働者)の給与が労働時間週によってではなく,会社にどのような営業利益をもたらし,どのような役割を果たしたのかによって決められていること

・被告(使用者)は原告の労働時間を管理しておらず,原告の仕事の性質上,原告が自分の判断で営業活動や行動計画を決め,被告もこれを許容していたこと

・このため,そもそも被告は原告がどのくらい時間外労働をしたのか,把握することが困難なシステムとなっていること

・原告は,被告から受領する年次総報酬以外に,超過勤務手当の名目で金員が支給されるとは考えていなかったこと

・原告は被告から高額の報酬(月額約183万以上)を受けており,1日70分間の超過勤務手当を基本給の中に含めて支払う合意があったと考えても,労働者保護には欠けないこと

という理由で,基本給(年次総報酬額)の中に超過勤務手当も含めるとの合意が有効と判断されました。

 

①も②も,いずれも,労働の対価として実質的に十分な賃金が支払われている(=労働者保護に欠けるところがないといえる)ことがポイントとなっていますので,

使用者からすると,労働の対価として適切な金額さえ支払っていれば,基本給と割増賃金部分の区分を明確化しなくてもよいという話になりそうです。

 

ただ,①②の裁判例は,あくまでケースの個別的事情の検討結果として,最高裁の判断基準の例外に当たる場合と考えられます。

やはり労務管理上は,基本給に割増賃金を含める場合には,これらの区分を明確にしておくことが望ましいと思います。

 

 

※先日,「12人の怒れる男」という演劇を観ました。俳優さんが2時間ぶっ通しで舞台に立ち,アメリカの陪審員12名の緊迫感あふれる評議の模様を演ずるというものです。元はアメリカの脚本のようなので,日本語に翻訳された時に,必ずしも日本の裁判用語と一致するわけではありません。

日本では,「被告」は民事事件でしか使わず,「被告人」は刑事事件でしか使いません。

「弁護人」も,刑事事件でしか出てきません。弁護士が刑事事件の裁判で被告人を弁護する立場となったとき,「弁護人」という呼称になります。

上記の舞台では,刑事事件の陪審の場面なのに「被告」という言葉が使われていたので,アメリカでは「被告」「被告人」の用語の区別はどうなっているんだろうと少し気になってしまいました。(つづく)

 

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