弁護士奧野舞のブログ

弁護士法人シティ総合法律事務所(http://www.city-lawoffice.com/)

【医業】【労働】医師・看護師の時間外労働

厚生労働省の「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」という組織をご存知でしょうか。

 

最近,この検討会が,医師・看護師の短時間労働や時差勤務の導入といった勤務体系を見直し,外来医療の提供体制の最適化,医師業務の移管(タスク・シフティング)の推進など,多岐にわたる提言を行いました。

 

2016年10月に発足した組織だそうで,今後の医療を取り巻く環境の変化や患者のニーズの変化・多様化を踏まえて,医師・看護師等の働き方について検討する目的が掲げられています。

 

平成28年の厚生労働省委託事業として行われた調査・研究では,医師の時間外労働の割増賃金について,下記のアンケート結果が出ています。

 

時間外労働に対する手当については、

①「申告時間通り支払われている」が36.7%と最も多く,

他方で,

②「上限時間が決められており、それを上回る時間については支払われていない」が11.8%、

③「上司が時間外労働を認めた時以外は支払われない」が5.7%、

④「時間外労働時間については支払われていない」も8.2%という結果でした。

 

②から④を合計すると,約25%以上は,法律にのっとった割増賃金額が支払われているとはいえない,という結果になりました。

 

実際には,時間外労働の申告自体をしていない,申告していたとしても実際の労働時間とは整合していない,という医師も相当数いるのが現実であろうと思います。

 

将来的な人口推移を考えると,医療サービスを受ける人が増加する一方で,労働人口は減少してゆき,医療現場で第一線で働く人の負担が必然的に増え,現状のままでは医療現場から働き手が離れてゆくことが予想されます。

 

上記の検討会の提言にも含まれているように,医療従事者の業務負担の軽減だけでなく,医療従事者が医療現場から離れてしまうことのないよう,男女問わず,医療従事者の育児や介護に配慮する意味での短時間労働・時差勤務の導入・在宅労働・施設内保育所の整備などの支援は急務であろうと思います。

 

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【医業】医師やスタッフの態度×ホスピタリティ×来院数の話

医業経営コンサルタントの奧野です。

 

最近,某業界紙を読んでいて,普段から自分が感じていることと一致したので書いてみたいと思います。

 

インフォームドコンセントの話にも通じるところですが,「医師」=「専門家」と,「患者」=「素人」との間には,会話をしていても常に認識のギャップが生じることは避けられません。

 

それは,医学的な説明の内容そのものについてだけではなく,「その疾患を,どのくらい深刻なことだと思っているかどうか」ということについて,ギャップが生じます。

 

医師は,様々な疾患を診た経験から,「よくある。大したことじゃない。」とカテゴライズしてしまっていることも,患者からすれば,「いつ良くなるんだろう?本当に良くなるんだろうか?」と色々な想像の中で不安が大きくなってしまっている場合があります。

 

そんなときに,医師や看護師から「上から目線」で物を言われた日には,たまったものじゃありません。専門家の側からすれば,「そんなことぐらいでいちいち騒ぐなよ…大げさだな。」「こっちはちゃんと説明したんだから,そのとおりにして大人しく治療に専念すればいいのに…」という気持ちがあるのかもしれません。

そのように思うこと自体が問題なのではなく,伝え方・態度に問題があるということです。

 

自分の身体に不安を抱えた患者からすれば,高圧的な態度をとられれば嫌な気持ちになりますし,下手をすれば,別のところに行こうかな…,という気持ちにもなります。

 

私も,病院にかかるときには,「玄関を入ってから出ていくまで,不快な思いをしなかったか」という目線で,つい見てしまいます。

 

私が定期健診に行っているクリニックは,受付のスタッフ,検査時のスタッフ,医師自身の対応…すべてにおいて暖かくてにこやかで,来院者を安心・リラックスさせる工夫至るところに表れていました。

検査費用の比較をすると,他院の方が安いのですが,私は「このクリニックにお金を払いたい」と思うので,そこに行くようにしています。

ひとりひとりの患者に「ここにまた診てもらおう」と思える工夫は,医師の手腕・専門性も重要ですが,それ以外にも,「専門家が専門家であることに,悪い意味で慣れてしまわないように」することが大切だと思います。

 

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【医業】医業×労務×女性×助成金

医業経営コンサルタントの奧野です。

今日は,医業経営者が活用できそうな助成金を1つ紹介します。

厚労省助成金で,「特定求職者雇用開発助成金」といいます。

(※平成29年4月1日から,上記の名称に変更されました。)

 

この助成金は,高年齢者(60歳以上65歳未満),母子家庭の母,身体・知的障害者を,ハローワークや民間の職業紹介事業者の紹介により雇入れ,継続雇用が確実であると認められる場合に,受給することができるものです。

今日の記事では,母子家庭の母に着目して紹介したいと思います。

母子家庭の母は,なかなか正規雇用の仕事に就くことができず,その背景には,フルタイムで働く時間を確保できなかったり,業務上の急な対応に応ずることができなかったり,子どもの急病等でやむを得ず休む必要が出てしまうことなど複数のハードルがあり,こういった制約を含めて母子家庭の母を雇い働き続けてもらう体制が「整っている」という中小企業は少ないと思います。

今後,様々な企業が実践を繰り返して,女性活用,それも「男性と同じ条件で働ける」という方に限らず雇用し働き続けてもらう仕組みが出来上がっていくであろうと思いますが,業種によっても今すぐの着手が難しい現状もあると思います。

その点,クリニックや介護施設では,元々女性職員の数が相対的に多く,事務を中心とする業務であれば職務内容がマニュアル化しやすいですし,一人の人が営業開始から終了までずっと担当している必要がない業務もあります。

こうした事務スタッフは女性活用の場面としてすぐに使いやすく,母子家庭の母で,「午前中3時間~4時間の短時間勤務であれば可能」という方は少なくありません。

上記の助成金も活用すれば,助成対象期間である1年間で,短時間勤務以外の場合は60万円(30万円を年2回支給),短時間勤務の方を雇入れる場合は40万円(20万円を年2回支給)受給できる可能性があります。

もちろん,助成対象期間を越えて雇用を継続することが大前提の助成金ですので,どのような人を雇い入れるかというところは,各事業主がしっかりと考えた上で決めていただく必要があります。

母親として子どものためにどうしても時間を割かなければならず,能力があるのにその力が発揮できず,低所得のまま生活をしている方も沢山います。

医業経営においては,事業所の看板となりうる女性従業員の活躍が特に求められる分野といっても過言ではないと思います

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【医業】【労務管理】医業経営における労務管理について

学生時代に労働法を学んでいたことから,労務問題に興味を持つようになり,弁護士業務のかたわら,社労士登録も行っていましたが,この度「医業経営コンサルタント」という認定資格を取得し,医業経営に特化したサポートが出来るように準備を進めております。

そうはいっても,私自身が病院等の勤務経験があるわけではありません。

ただし,身近にクリニックの開業者がいるので,医療法人の承継問題や開業までの準備活動,労務管理の問題についてはなじみがあります。

医業経営者においては,診療分野にもよりますが,医療事故発生時のリスクという大きな要素にかぎらず,日常的には,患者対応や職員の労働環境の健全化などが,必ず問題となってきます。

患者への対応や物品管理,緊急時の連絡体制の整備など,組織内でマニュアル化できるところは出来る限り「仕組み」自体を作ってしまい,それを定期的な研修で共有・実践する取り組みを行う時間を確保する,それが当たり前に出来ているかどうかで,医療機関等のリスクに対する強さが変わってきます。


次回から,従業員の時間外労働の問題,女性が多い就業環境ならではのセクハラ対策,カルテの取扱に関する問題などに触れてみたいと思います。

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【医業】インターネット上の不利益な書き込みについて

病院・クリニック・介護施設等の口コミ投稿がインターネット上でなされる場合があります。

利用者・患者が実際にサービス提供を受けての感想・印象が書かれているもので,仮に不満な点が書かれていたとしても,サイトの運営者に削除を求められるものではありません。

ただ,その書き込みの内容が,医業従事者個人や法人の社会的評価を低下させるような記載である場合には,名誉毀損で被害届を出すことができる場合があります。

 

クリニックや施設側にとってマイナスとなるような記載が全て名誉毀損に当たるとまではいえず,実際に問題とされる書き込みの文面や書き込みの頻度などを個別に検討・判断する必要があります。

こうしたインターネット上での名誉毀損被害については,迅速な対応が必要で,サイトの運営管理者に「名誉毀損に該当しうる書込みがあるから,削除してほしい」という請求をする方法のほか,警察に被害届を出して書き込みの当事者を特定してもらうように働きかけて刑事事件として立件してもうら方法のほか,書込みの当事者があらかじめ特定できているのであれば,書き込みを直ちに削除するために,「仮処分命令」という比較的迅速な裁判所の手続きを利用して削除の命令をさせたり,損害賠償を求めることも考えられます。

 

医業にかかわらずの話ですが,「どんなクリニック・施設でサービスを受けるか」を選択する際に,インターネットで情報を調べてアクセスする方が多く,HPの整備とともに,ネット上での理不尽な風評被害について,適切に対処する心構えも必要です。

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【医業】診療録・看護記録等の役割②

医事紛争において,診療録や看護記録が重要な役割を果たすということについて,以前ブログで書いたことがあります。

今回は,単に裁判の証拠としての側面というより,紛争予防の観点からの診療録等の活用についてお話したいと思います。

比較的大きい規模の病院において,これから患者に行う医療処置に関するインフォームドコンセントの時間を十分に取ることができている場合はよいのですが,個人開業のクリニックでは,一人一人の患者に十分な説明の時間を確保することが出来ない場合もあります。

診療の際には,医師が「きちんと説明した」と思っていることでも,患者にうまく伝わっておらず,「先生はそんなこと言っていなかった。聞いていない。」などと,水掛け論に発展してしまっては,話し合いでの解決が出来なくなってしまい,結局訴訟を行うしかなく,時間と労力がかかります。

診療時に患者に伝えておくべきリスク・要点・予後に関する指摘などは,診療時に診療録にしっかり記載することが理想ですが,時間がない場合は,同席している看護師やその他補助者に依頼して,医師が口頭で患者に説明した内容について,医師の代わりに診療録に記載・入力してもらい,その代行記録者が署名・捺印しておけば,後になって記録の信用性を疑われることもありません。

どうしても医師自身が診療録に記載した方がよいという場合は,診療が終わってから医師本人が時間を取って診療録に加筆し,加筆時間も記しておけば足ります。

代行記録者に頼む体制をとる場合は,看護師を含む従業員に対して,受診時の説明の記録化の意義や,リスク回避のメリットと重要性を,定期的にミーティングや研修で確認する必要があると思います。

 

 

 

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【医業】説明義務違反を問われる原因

以前,インフォームドコンセントに関する記事を書きました。

 

これにも関連しますが,医師の説明義務違反が紛争に発展することを避けるために,どのような視点が必要か,考えてみました。

 

例を挙げて説明しますが,ステージⅣの肺がん患者に対して,適切な入院措置や検査,家族らへの説明がなされなかったとして,損害賠償請求訴訟に発展した事件(大阪地裁平成28年2月19日判決)があります。

 

この事件では,多発性転移を伴ったステージⅣの肺がんと診断された患者(女性・60代)が,被告病院の主要内科を受診し,その後,この患者の死亡後に遺族らが同病院の医師らの各措置に対して過失があったこと,医師らの説明義務違反があったことについて責任追及をしました。

裁判所の判断は,いずれの局面においても医師らの措置に過失はなく,説明義務違反も認められないとしており,請求が棄却されています。

 

受診から死亡までの経緯をみてみると,患者は,被告病院で頭部MRI検査を行ってがんの脳転移が見つかり,その5日後に次の診療が予約されていました。

ところが,予約日の2日前に,患者が血痰を吐き出したため,再び被告病院を受診し,この日は,各検査と薬の処方を受けて自宅に戻っています。その帰宅後の夜に,患者は自宅で倒れ,死亡しました。


被告病院での2度の受診時においても,各検査などに関する過失や説明義務違反が否定されたのは,受診時における患者の容体からして,患者側が主張する程の緊急性が認められなかったことが大きいようです。

そうはいっても,医学的知識のない素人の患者やその家族にとっては,「患者の身体に今何が起きているのか」,「それがどのくらい重篤なのか」,「今の状態からするとどのような処置をするのが適切なのか」,分かりやすく説明してもらえなければ,そう簡単に納得や理解ができるものではありません。


先程の事例でいえば,患者とその家族は,血痰を吐き出したことで,大慌てで被告病院を受診したのだろうと思います。検査を受けて,薬をもらって自宅に帰って数時間後,患者が再び血痰を吐いて亡くなってしまったのですから,「血まで吐いているのに,どうして医師は自宅に戻したのか」「自宅に帰さず,入院させるのが適切だったんじゃないのか」と考えることは,当然の流れといえるでしょう。


検査後の説明で,血痰を吐いていても,入院までの措置が必要がないことの理由が時間をかけて説明されていれば,患者側のご遺族の訴訟に対する意向も少し違ったものであったかもしれません。

医師に限らず,専門家にとって心がけなければならないのは,自分(専門家)にとっては当たり前・自然のことでも相手にとっては一大事であることが多々あり,相手の目線にまで降りた説明ができなければ,コミュニケーション不足が生じて無用な紛争を増やしてしまうことを頭に置いておく必要があると思います。

 

 

 

 

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