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弁護士 奧野舞のブログ

弁護士法人シティ総合法律事務所(http://www.city-lawoffice.com/)

【医業関連】転送義務違反の事例紹介

医業関連

最近は裁判例を調査する機会が多く,細かい字を沢山読むので近眼がさらに進行しそうですが,久々の事例紹介です。

 

長崎地裁平成26年3月11日判決,福岡高裁平成27年2月26日判決】

主な争点としては,医師の転送義務違反と患者の死亡結果との間に因果関係が認められるかという点でした。

 

開業医においては,医院内で実施できる措置には限界がありますので,患者の診断結果によっては,適切な医療が実施できる高次医療施設に早期に搬送する義務があります。

診断自体に誤りがないことは勿論,最悪の事態を想定した上で,搬送の手配をすることが求められるわけです。

 

上記のケースでは,患者が急性心筋炎を発症した疑いが認められた時点で,医師は,患者に心電図検査を行った上で,PCPSによる治療が可能な医療機関へ患者を転送していれば,患者を救命できた高度の蓋然性があったのではないか,という点が争点となりました。

 

第1審の長崎地裁では,患者がショック(血圧低下)を起こす前に患者にPCPSを施行出来ていれば救命可能性があったにもかかわらず,転送が遅れたものと判断がなされ,「転送遅れる→ショック症状→死亡結果」という結果を招いたと判断されて,患者側の損害賠償請求が認められています。

 

控訴審の福岡高裁では,医師に転送義務違反があったことを第1審と同様に認めたものの,転送義務違反と死亡結果との因果関係が否定され,原告の請求が棄却されました。

 

このケースでは,被告となった病院が離島地域にある病院で,PCPSを実施するためには患者をドクターヘリで搬送する必要がありました。

患者は,搬送前にCT撮影をしていますが,撮影のために臥位にされたことがきっかけで,心機能低下状態となり,ショック症状に至ったと認定されています。

 

控訴審は,この事実に着目し,「航空機への長時間の搭乗は,例え…ドクターヘリで,酸素吸入や呼吸しやすい体位保持などの配慮が行われたとしても,気圧の変化等によって心機能に対する相当程度の負担増があることは否定できないと認められるから,転送の途中で臥位になったと同程度の心機能への負担増が生じる可能性が相当程度あるといえる」と判断しています。

 

つまり,臥位になった程度でショック状態に陥るほど心機能が低下していたのであれば,仮に適切なタイミングで高次医療施設に搬送されていたとしても,転送途中で臥位になった際にショック状態になる可能性が相当程度あるとした上で,転送義務を果たしていても,患者が実際に亡くなった時点まで生存していたといえる高度の蓋然性があったとまではいえない,と判断されています。

 

医療判例解説を読んでの感想ですが,「患者をいつどの時点で搬送すべきだったか」という転送義務違反を問う時点を,時間的により前に設定することが出来れば,もっと患者の状態が良い時点での搬送が可能となり,ドクターヘリの搬送による心機能への負担うんぬんにかかわらず,患者を救命できた高度の蓋然性があったということがいえそうです。

ただ,医師の過失(本件では転送義務違反)を問う時点を前に持ってくると,果たして医師がその時点で急性心筋炎の可能性を疑う余地があったといえるのか,という問題もあり,今度は転送義務違反自体が否定されやすくなる可能性もあるので,どの時点での医師の過失について責任を問うのかという場面設定は,なかなか難しいなと感じます。

 

 

 

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【医業関連】<Q&A>予防接種に関する問題

医業関連

突然ですが,2月頭から半月ほど,ずっと体調不良でした。

第1週の喉の不調に始まり,週末には高熱で丸2日寝込み,その間ずーっと薬を飲み続けるも,咳と鼻水がしつこく残り,完治するまで半月以上かかってしまいました。

(A型B型両方いっぺんに罹患していたことも関係あるかもしれませんが。)

ただ,予防接種は打っていたせいか,熱は38度台でとどまっていました。

 

そんなわけで,本日は予防接種に関する問題です。

 

<Q>

インフルエンザの流行期前,様々な年齢層の方が接種を希望されます。当クリニックでは,大人だけでなく子どもにも接種する機会が多いですが,中学生などある程度の年齢になった子どもについては,親が同伴せずに来院することもあります。保護者に接種してよいか確認すべきでしょうか。

 

<A>

まず,医療機関でのワクチン接種は,厚労省のワクチン接種実施要綱(「受託医療機関における新型インフルエンザ(A/H1N1)ワクチン接種実施要領」厚生労働省発健0928第7号平成22年9月28日厚生労働事務次官通知)に従って実施されることになります。

 

この要綱によれば,予防接種の実施前に「接種意思の確認」が必要とされており,16歳未満の者又は成年被後見人にあたる者が接種のために来院した場合は,原則として保護者の来院が必要とされています。

 

原則なので例外が認められる・・・という解釈にはなりますが,15歳以下の者が保護者を同伴せずに来院した場合は,極力別の日に改めて保護者同伴の上で来院してもらうか,どんなに切羽詰まっていても,電話等で保護者に直接説明をした上で,接種意思の確認をしましょう。

接種希望者だけでは把握していない基礎疾患や体質など,保護者であれば十分に把握しているような情報もあるかもしれませんですので,保護者に電話連絡する場合は,具体的な聴取を惜しまないべきです。

例えば,過去に罹患したことのある疾患,アレルギーの有無と種類,来院時から近接した時期における発熱の有無など,接種希望者が通常「予診票」に記載する内容について聞き出すことが必要です。

 

 先程の要綱にも,予防接種前の「予診」の実施に関する項目の中で,

「高校生に相当する年齢の者及び中学生に相当する年齢の者において保護者が同伴しないで行う接種においては,必要に応じて保護者に連絡するなどして,適切な予診を行う。」と定められています。

 

 

どうもA型はウイルス型が複数あるようですので,私も別のA型に再度罹患しないように,気を付けます。

 

 

 

 

 

 

【医業関連】<Q&A>病院内での暴力や暴言に対する対処①

医業関連

<Q>

あるクリニックでは,交通事故で外傷を負った患者に,事故直後から月に1~2度のペースで通院してもらっていましたが,医師がそろそろ通院も不要と考え,患者に対し「受傷部位に異変を感じたらまた来て下さいね。」と言い,定期的な診察は一旦終了する旨を伝えました。

すると,患者は「一向にしびれが治らない。そもそものお前の診療ミスだ!金なんか払えるか!」と大声で怒鳴るとともに,診察室にあったトレーなどを医師に向かって投げつけ,その後担当医に土下座を強要し,結局診療代も支払わずに出ていってしまいました。病院としてはどういう対処をすればよいのでしょう?

 

 

<A>

 患者が医師や看護師その他職員に対して暴力や暴言を行った場合は,それが刑法上の犯罪行為に当たる可能性があるので,暴力や暴言があったこと自体を証拠として残すために,すぐに警察に通報するとともに,出来る限り早く弁護士など第三者を関与させる必要があります。

 

先程のケースでいえば,まず,クリニック内で医師や病院職員に対して大声で怒鳴る行為は,刑法上の「威力業務妨害罪」に当たる可能性があります。大声を出すことで周囲を威嚇し,通常の病院業務に支障を生じさせているからです。

また,患者が医師にトレーを投げつけた行為は「暴行罪」に当たる可能性がありますし,実際に医師や病院職員が投げられた物に当たって怪我をした場合には「傷害罪」に当たる可能性もあります。病院内の備品を壊せば器物損壊罪に当たる可能性があり,土下座を強要した行為は,「強要罪」に当たる可能性があります。

病院側として誠心誠意対応していたつもりでも,医師や職員等との意思疎通がうまくいかずに病院内での患者による暴力・暴言が行われた場合,いかなる経緯や理由があれど,患者側は診療に不満があったら何を言ってもやってもいいんだ,ということにはなりません。

病院として法的に適切な対応をするために,まずは警察や弁護士に相談をしてください。

 

病院関係者だけで問題に対処しようとした場合,どうしても,「診療契約にもとづいて医師が行った説明や診療に問題がなかったか…」という話に帰着してしまうので,もし病院側にわずかでも引け目を感じる部分があった場合は,そこに付け込まれて患者側から不当な請求や要求が なされてその内容がエスカレートしていく,といった危険性もあります。

また,患者の暴言や暴力は,多くの人間が目撃している場で行われるとは限らないですから,患者側と病院側の言い分が食い違ったまま,「言った言わない」の話で平行線となり,話し合いでは一向に解決しないことも多いです。

 

警察や弁護士に早期に相談をするメリットは,被害に遭った事実を通報・相談することで第三者のもとに記録が残りますし,もし暴行・暴言をきっかけとして刑事裁判・民事裁判に発展したとしても,病院側の主張のとおりに「実際に暴言・暴力があった」として,裁判の中でも信憑性のある話と評価される可能性が高くなります。 

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【医業関連】医師の転送義務

医業関連

クリニックにおいては,常にそのクリニックの設備の中で患者の検査・診療を全て賄えるケースばかりではありません。

 

ときには,クリニックの医師の専門外の患者も来院しますし,専門分野であっても,自分のクリニックでは十分な治療が出来ない場合もあります。

医師は,その都度「自分のところで手におえない患者を適切に転送させる」必要が出てきます。これを転送義務(転医義務)といいます。

 

転送義務の内容について,参考になる裁判例を紹介します。

 

大阪地裁平成9年3月7日判決では,開業医の転送義務(※裁判例では「転医指示義務」と表現されています。)について,下記のような判断がなされています。

 

「…医師等は,診断義務の一環として,当該患者の症状を診断・治療する具体的な能力が不足していたり,必要な検査・治療の設備等を有していない場合,そのことが判明した段階で直ちに,右患者に対し,専門医や設備の完備した病院において速やかに受診するよう指示する義務を負っている。」

 

「そして,医師等は,右患者に対し,有効・適切な医療措置を受けることができるように,当該症状を診断できる能力や設備等を具備する病院名等を具体的に示し,必要に応じて紹介状を交付するなどしなければならないというべきである。」

 

この裁判例の記載ぶりからすると,もし医師が自分のクリニックでは手に負えないと判断したときには,「一応,他の大きな病院でも診てもらった方がいいですよ。」といった言葉をかけるだけでは,医師としての転医指示義務を果たしたことにはならず,「たとえば〇〇病院は検査設備も整っているし,ここで診てもらってください。紹介状を書いておきましょう。」…という対応がなされていれば,転医指示義務違反を問われることもなかったでしょう。

 

上記の裁判例のケースでも,実際には医師が患者に対して「悪化するようなら,大きな病院で診てもらいなさい。」と述べていたようですが,裁判所はこの医師について,「十分な診断ないし転医指示を行ったということは到底できない」と判断しています。

 

こうした判断の背景には,やはり「医師=専門家」「患者=素人」という構図のもとでは,「患者が最大限医師の言葉をくみ取って,慎重に慎重に対応し,医師の診断結果を踏まえて自らセカンドオピニオンを聴きにいくべきであって,それをしなかった患者について後に悪い結果が生じたとしても,それは患者の自己責任である」,という考え方がまかり通ってしまうと,専門知識を持っていない患者側にあまりに酷である,との価値判断があるように思います。

 

「お医者さんが念の為大きな病院で診てもらうようにと話したから,すぐにでも行ってみよう。」と考える患者もいれば,「念の為だと言っていたし,そんなに大事にはならないだろうから,しばらく様子を診ていればいいか。」と考えるか,これはそれぞれの患者の受け止め方次第であって,全ての患者が,医師のその時々の言葉や懸念事項を,医師と同じくらいの重みで受け止めて理解してくれるとは限りません。

 

 

 

【医業関連】インフォームドコンセント②

医業関連

昨年11月のブログで,インフォームドコンセントの考え方について簡単にお話しました。

とはいっても,何をどこまで説明しておけばよいのかは個々のケース(症例やどのようなリスクが伴う事例なのか)によって異なりますので,医師がどこまで説明義務を負うのか,著名な裁判例を示して,イメージを持っていただきたいと思います。

 

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最高裁平成13年11月27日第三小法廷判決】

この事案では,乳がんを患った患者が,担当医師に対し,実際に実施予定であった手術(「胸筋温存乳房切除術」)の他に,選択肢の1つとしてあった「乳房温存療法」について十分な説明がなされておらず,診療契約上の説明義務が尽くされていなかった,として争われました。

 

患者に対し乳がんの手が行われた当時は平成3年で,「乳房温存療法」は,当時の医療水準としては,確立されていませんでした。だからこそ,未確立の療法について,医師がどこまで説明義務を果たすべきかは,難しい問題であったといえます。

 

この裁判では,未確立の療法については,「常に(医師が)説明義務を負うと解することはできない」としながらも,「医師が説明義務を負うと解される場合があることも否定できない」と判断しています。

 

具体的には,

①その療法が少なからぬ医療機関で実施されていて,

②相当数の実施例があり,

③これを実施した医師の間で積極的評価もされているものについて,

④患者がその療法の自己への適応の有無や実施可能性について強い関心を有していることを医師が知った場合は,

⑤医師が知っている範囲で,

その療法の内容適応可能性やそれを受けた場合の利害得失当該療法を実施している医療機関の名称や所在などを説明すべき義務がある,

と判断されました。

 

その上で,実際にこのケースの患者においては,「乳房温存療法」について関心を戴いていたことが明らかだと認められ(患者が医師に対して手紙を送っていたようです。)し,担当医師も乳がんの専門医であり実際に「乳房温存療法」の実施経験もあった方でした。結果として,本件では説明義務の不履行が認められました。

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医師の側が,絶対に説明義務違反の責任を問われないようにと,あらゆる未確立の療法について常に先端的な治療法を勉強・実践していくことには,限界があります。

 

また,大都市の大病院に所属する医師と,地方のクリニックの医師が行うことのできる診療には,医療設備等などの問題で,自ずと差異が出ます。

 

そのため,ひとりの医師が何に対してどこまで説明義務を負うのかということは,例えば「専門医」の認定の有無や,どの学会に所属している医師なのか・臨床経験はどうか,といったことを総合的に見た上で,どこまでの医療水準に従った説明義務を負うのか,という点が決まります。

 

医師自身が学会や研究会で先端的な医療の知識を吸収し続けることは,専門家として当然求められるわけですが,各自の専門分野に関する診療行為の中で,未確立の療法について関心を抱いた患者に出会った場合,情報収集の上,結果を丁寧に伝えるとともに,それをしっかり記録に残しておくことが重要です。

 

 

 

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【医業関連】診療録や看護記録等の役割

医業関連

医師による診療録は,患者が診療を受けた経緯,主訴,症状,問診・検査の結果,医師の評価・診断内容,治療内容,治療方針に関する説明の有無・内容…などといった事実を把握するために,重要な役割を果たします。

 

医師が診療録を作成することは医師法で定められた義務にもとづくものであり,医師がその責任と専門的立場から,業務の一環として,規則的かつ経時的に作成されるものであって,通常は「紛争発生前に」「紛争とは関係なく」作成されるものです。

 

だからこそ,例えば医療ミスなどで医療訴訟に発展した場合は,裁判の証拠として医師の診療録が重要な意味を持つことになります。

 

医師の診療録と同じ位置づけにあるものとしては,歯科医師の診療録,保険医の作成する診療録,助産録,調剤録,照射録など,法律上作成が義務付けられている文書があります。

 

診療録に準ずるものとしては,看護記録が代表的ですが,看護記録は法律で作成が義務付けられているものではありません。

しかし,医師の診療録と同様にその責任と専門的立場に立って,規則的・経時的に作成されるものですので,医療訴訟においては診療録と同様に,事実関係の把握に重要な役割を果たすわけです。

 

診療録等の訂正に関する問題は,またの機会にお話します。

【医業関連】インフォームドコンセントの考え方①

医業関連

医療の分野では,「インフォームドコンセント」という言葉が浸透していますが,これは元々は米国から日本に取り入れられた概念です。

 

「説明と同意」という和訳がなされることが多く,意味合いとしては,治療を受ける患者側が正確な情報を与えられた上で合意すること,を意味します。

 

英語の " informed consent "の本来的な意味は,医療の分野に限らず,あらゆる法的契約関係に通用する概念のようです。

 

具体的には,医師が患者に対し,

①どういった治療法が選択肢としてあるのか,

②その治療にはどのようなメリット・デメリットが存在するのか

について正しく説明し,

③患者側に①②について十分理解しもらった上で,どの選択肢を採るのか決めてもらう,

というプロセスを辿ります。

 

多くの場合,患者側はインフォームドコンセントの場面で「私は,医師の十分な説明を受けた上で,同意します(又は拒否します)。」という内容の書面への署名を求められます。(※家族が手術の同意書にサインする場面を思い浮かべて下さい。)

 

この過程を経ることによって,医師の治療行為について患者側が自らの意思で決定をしたことになりますので,その後万が一治療によって望まない結果が生じた場合においても,その責任を全て医師側に問うということが出来ない場合があります。

 

インフォームドコンセントが不十分なまま医師が治療方針を貫いた場合,治療結果によっては「患者側に十分なリスク説明がなかった」として,紛争に発展するおそれがあります。

 

大がかりな手術を行う大病院は勿論のこと,比較的少人数のクリニックにおいても,治療方針ごとのインフォームドコンセントの時間をきちんと設けることは,紛争回避及び経営リスク回避にとって非常に大切です。

 

ただ「説明の機会さえ設ければよい」という話ではなく,基本的に「治療を行うプロと,素人の患者」といった避けられない情報格差がある関係の中で,必要な情報を共有して互いの考えを分かりあうということに重点があります。

 

医業分野にかかわらず弁護士業務もそうですが,当事者間でのコミュニケーションが取れていることで避けられる紛争が,沢山あるように思います。

 

 

 

 

 

 

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