弁護士 奧野舞のブログ

弁護士法人シティ総合法律事務所(http://www.city-lawoffice.com/)

【労働】各種手当について考える

使用者の皆さんは,自社の給与明細をじっくりと見返したことはあるでしょうか。

基本給の他に,色々な手当が支給されていないでしょうか。

その手当について,どういった根拠でその労働者にその金額が支払われているのか,ぱっと正しく説明できるでしょうか。

 

労働者の割増賃金の計算をしてごらんと言われたら,ぱぱっと計算の基礎となる賃金部分を計算できるでしょうか。

 

当法人のHPでも,労務管理に関するコンテンツを増やしているところですが,「先代からの意向で・・・」とか,「同業他社のを真似して・・」といった理由で「何とな~く」支給している手当は,危険です。

 

いざ,会社が労働者から残業代の支払請求を求められたとき,これまで何となく支給してきた◎◎手当が全て,割増賃金の計算基礎単価に含まれてしまって,事実上,基本給部分が膨れ上がったような計算になり,予想を超える割増賃金の支払義務が発生してしまった・・・なんていう事態が,少なからず起こります。

 

みなし残業手当だって,残業時間数に応じて算出されたものでなければ,裁判で争った場合には,割増賃金の支払と同一の性質ものとは評価してもらえません。

 

賃金体系の変更やベースアップを検討する際に,見直してみてはいかがでしょうか。

 

#割増賃金 #手当 #残業手当

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【医業】病院に対する業務妨害と診療契約の解除

【Q】当医院において,継続的診療契約を締結している恒例の患者様がいるのですが,「担当の看護師が気にくわない」「あいつを外せ」「待ち時間が長い」等という不満を,直接来院して大声で受付で怒鳴ったり,週に2~3回はクレームの電話をかけてきて,その対応に職員が相当な時間を割いているという状況です。

当院としては,もはや患者様との信頼関係が築けないものとして,診療契約を解除したいのですが,応招義務違反だと言われて,争いにならないでしょうか。

なるべく穏便に済ませたいと思っています。

 

【A】医療契約は準委任契約ですので,当事者双方がいつでも解除できるのが民法上野原則です。

ただし,医師法上の「応招義務」によって,正当な事由がなければ医師は診療を拒んではならないということになります。

そして,当該医療機関が,患者様のトラブルに際し,信頼関係の破壊を理由に診療契約の解除をするためには,下記の要件が必要と裁判例で示されています。

 

①単なる信頼関係の破壊だけでは十分ではない

②患者が医療機関の業務を妨害したり,医療機関に対して不当な要求をしたりするなどの事由が必要

③診療契約の解除によって患者の病状が悪化するおそればない場合であることも必要

 

①②については,裁判例(大阪高裁平成24年9月19日決定)で述べられている点としては,特定の患者を長年にわたって診てきた診療機関が,当該患者の症状が治癒ないし改善していないにもかかわらず,診療行為を拒絶することは原則として許されないとしながらも,医療機関が多数の患者と診療契約を締結し,それぞれの患者に対して同様に診療義務を負うものであることから,緊急やむを得ない場合を除いては,特定の患者に対する診療のみを優先することはできないとしています。

 

具体的ケースに当てはめて考えてみると,継続的に通院されている方について,症状の改善もないのに一方的に医療機関から「信頼関係がなくなったから解除」ということでは,診療拒絶の正当な事由は否定されるものの,患者側の要求が医療機関側にとって無理難題を押し付けるものであって,クレーム対応等についてもはや限られた人数のスタッフでは対応しきれず,他の患者様への診療行為に影響を及ぼすような事態にまで至ってしまったのであれば,それは当該患者の診療行為を拒否しても合理的理由があるものといえる,ということになります。

 

③については,当該患者の症状や診療状況によって個別具体的に判断されるところであろうと思います。

 

#応招義務 #診療拒絶 #診療拒否 #医師法 

 

 

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【労務】セクハラと労災認定

業務に起因して精神疾患を患った場合,怪我などと異なり,労災認定のハードルが高い,そもそも使用者側が労災申請に基本的に協力しない,という話をよく耳にします。

 

セクハラに関していえば,セクハラが原因となって精神疾患を発病した場合について,これが業務上か業務外かを判断する場合について,厚労省は下記の判断基準を示しています。

 

①「新認定基準」で対象とされる精神障害を発病していること

精神障害の発症前おおむね6か月の間に,客観的に当該精神障害を発病させるおそれのある業務による強い心理的負荷が認められること

③業務以外の心理的負荷および個体側要因により当該精神障害を発病したとは認められないこと

 

以上の判断基準を満たすことが,「業務上」の疾病と認定されるために必要になります。

 

下記のリンクも参考にしてください。

http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/rousaihoken04/dl/120827.pdf

 

なお,セクハラ事案については,①セクハラ被害者が,加害者に対して被害をできるだけ軽くしたいとの心理から,やむを得ず迎合的な態度をとったり,②被害を受けてから相談行動をすぐにとっていなかったり,③医療機関受診時にもセクハラが原因であることを申し出ていなかったりなどということが,通常起こりますが,これらの事実があるからといって,セクハラがあったこと自体を単純に否定する理由にはなりません。

 

この点も,上記の「新認定基準」においては留意点として示されています。

 

#セクハラ #厚労省 #新認定基準 #労災 

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【労働】セクハラ禁止の就業規則

【Q】社内の服務規律の中に,セクハラ禁止条項も盛り込まれているのですが,近年のセクハラ被害の増加に伴い,見直そうと思っています,どのようなところを見直したらよいでしょうか。

 

【A】

職場におけるセクハラ対応の義務を定めているものに,「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」(以下,単に「指針」といいます。平成18年厚生労働省告示第615号)があります。

 

この指針は,平成28年の改正(平成28年厚生労働省告示第314号)により,「職場におけるセクシュアルハラスメントには,同性に対するものも含まれるものである。また,被害を受けた者の性的志向又は性自認にかかわらず,当該者に対する職場におけるセクシュアルハラスメントも,本指針の対象となる」との文言が追加されました。

 

これによって,同性間の性的なハラスメントや,いわゆるLGBTを理由とするハラスメントも,事業者が雇用管理上措置を講ずべきとされたことになります。

 

そこで,セクハラ禁止の一般的な禁止条項に追加して,「職場の内外における性的な言動については,被害者の性的志向または性自認にかかわらず対象となる」という条項を定めることで,上記改正指針にならった規則となります。

 

また,実際に規則として定めるだけではなく,労働者に対するセクハラ禁止の周知・啓発が重要(こうした周知・啓発自体,指針に明記されているものです。)ですから,従業員への啓発の時間を定期的に設ける必要があります。

 

特に,LGBTという言葉が一般的に社会に浸透したのもごく近年の話ですから,労働者の世代によっては,性的志向性自認に対する寛容性について差が生じてしまう職場もあるかと思います。

 

経営者・管理者の意識改革と啓発への実質的努力が必要になってくる分野であると考えます。

その意味で,

 

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【医業】【労働】労働契約法18条の無期転換条項の高度専門職への適用について

【Q】

うちの病院では,有期労働契約(1年ごとに契約更新)で医師を雇用しています。労働契約法18条によると,5年を超えて有期労働契約を更新すると,労働者側に無期労働契約への転換を求める請求権が発生するとされています。

正直,医師の年収も相当高額なものなので,患者が少しずつ減少傾向にあるうちの病院の資金繰りを考えると,雇用継続について責任が持てないので,無期契約への転換請求権は,放棄してほしいと思っています。契約締結時において,「事前に無期転換請求権を放棄する」合意をすることは可能なのでしょうか。

 

【A】

まず,有期契約の労働者が医師などの高額収入が発生する専門職であるということを別にして考えると,厚労省のスタンスとしては,契約更新の条件として無期転換請求権を事前に放棄させることは,労働契約法18条の趣旨を没却するものとして公序良俗に反して無効と解される,と示しています。

 

ここから,同法18条の趣旨としては無期転換請求権の事前放棄は原則として認められないと考えることができます。

 

いまだ裁判例などが存在しないのですが,学説レベルでは,

・高額の報酬で任期を限って雇用される高度専門職については,5年を超える場合でも無期転換申込をしないことを事前に合意することは,労働契約法18条の趣旨を没却しない。

・無期転換請求権発生後の放棄であれば,労働者の自由な意思に基づく場合に限り,労働契約法18条の趣旨を没却しない。

 

・・・といった議論があるようです。

2つ目は,無期転換請求権が発生した「後」の時点での,自由な意思に基づく請求権放棄なので,法の趣旨を没却しないというのは自然に理解できるところです。

 

1つ目については,どのように考えたらよいのでしょうか。

労働契約法18条の趣旨が,雇止めをされる側の労働者の不安解消と雇用の安定化を図ることにあることからすれば,「高額の報酬で任期を限って雇用されている」労働者については,生活を維持できるだけの相当額の報酬を本来の任期期間中に与えているのであるから,労働者の不安解消と雇用安定の必要性は,通常の有期契約労働者に比して低くなるのだ,という考えに基づくのでしょうかね・・・。

今後の裁判例の動向に着目してみたいと思います。

 

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【医業】対応が難しい入院患者等の対応について②

【Q】入院後の患者や入所者とのトラブル回避のため、院内・施設内で整備しておくべきものはありますか。

 

【A】

長期・短期にかかわらず、入院・入所者を施設に入れる場合の契約書・重要事項説明書・ガイドラインについて改めて考えてみました。

 

通常、入院時等の契約書は各病院でひな形が決まっていて、実際に患者等がこれを用いて入院する際には、そのままそれに従って締約、となっていることがほとんどであると思います。

 

一般的な民間での契約と大きくことなるところは、医師側に認められている「応招義務」の問題があり、患者の病状によっては受け入れ段階での契約締結の拒絶が自由にできないことです。

 

前回の記事でも説明しましたが、患者等に問題行動があり、応招義務を超えて「正当な理由」があると判断される場合には、法的根拠にむずびつけて、「〇〇といったことを行って医師・看護師等その他従業員の法的利益を害する事実が発生した場合には、一方的に入院契約・入所契約を解除することができるものとする。」といった形で、病院・施設側の立場を明らかにしておく必要があります。

 

一方的解除の根拠となる事実については、前回の記事で説明したような、暴力・暴言など、法的利益の侵害に当たる行為です。例示列挙で、問題行為の典型的な類型を挙げていく方法で契約書を作成することが多いと思います。

 

問題行為の累計によっては軽微なもの(たとえば、従業員に対する非難「と思われる」言葉を発するも、直接的・明示的なものではない、など。)もあるので、一方的な解除を認める条項をあまりに形式的に適用しないよう、内規や内部研修等で従業員に周知しておく必要があります。

 

一方的解除の内容について、重要事項説明書にも記載して契約書と別途患者側への説明の機会を設けるかどうかは、医業経営者側の判断となりますが、契約書の中で特別に患者側の了承を得たことを書面化しておくべきポイントにしぼって、抜粋して説明し、署名・捺印をもらうことで、紛争時に病院側を守る材料となります。

 

また、ガイドラインは、外部に公開するものとして利用されている方も少なくないと思いますが、病院・施設側としての理念の明示とともに、「当院を利用される患者様において、〇〇・・・といった行為があった場合には厳正に対処するとともに、警察への通告、民事訴訟の提起等の手段を選択します。」「・・・という場合には一方的に契約を解除いたします。」といった形で、ホームページなどで明示しておくことで、紛争発生時に病院側の立場を支える根拠の1つとなります。

 

 

 

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【医業】対応が難しい入院患者の退院について①

【Q】当病院には、認知症患者で入院中の方が複数います。

介助時に、看護師を始めとするスタッフの腕にかみつく、首を絞める、ナースコールを5分おきに繰り返す患者がいるのですが、こういった患者に対し、病院側から退院を求めることは可能でしょうか。

 

【A】

病院と入院患者の契約関係は、「診療契約」という法的には準委任契約の性質を持つとされているものです。

準委任契約は、民法上は当事者の一方から解除することができると定められているため、病院側が、入院患者の問題行動をとらえて、診療契約の解除(退院含む)を求めること自体は問題ありません。

これで、入院患者側が解除に応じてくれるのであれば、特に問題は生じませんから、まずは入院患者の家族やキーパーソンと十分にコミュニケーションをとって、どのような問題行動があったのか、病院側にどのような損失・支障が生じたのかを説明の上、診療契約の解除を目指すことになります。

 

もし患者が退院に応じない場合は、医師の「応招義務」の問題を考えないといけません。つまり、医師法上、患者からの診療の求めがある以上は、「正当な事由」なくして患者に退院を求めることはできないからです。

 

そして、どのような場合にこの「正当な事由」が認められるかは、確実な判断基準が決まっているものではないのです。

 

たとえば、病院側としては「入院患者が安全な環境で過ごし治療を継続できるように最大限の努力をしたけれども、やはり当該患者の問題行動が継続し、病院側としても適切な対応ができる限界を超えた」ものとして、以後の診療を拒絶したといえるのであれば、「正当な事由」ありとして、退院を強制しても法的に問題がないということになります。

 

「正当な事由」があったことを、病院側としてきちんと情報整理と証拠化を行っておくことが最も重要であり、患者の問題行動があった際には、

①現場で対応した職員間での即座の情報共有と上司への伝達

②報告書作成をその都度行って、問題行動への対応の詳細を記録すること、

③同様の事態が起こらないよう管理体制を工夫可能な場合はこれを実践すること

④家族やキーパーソンがいるようであれば、問題行動があるごとに随時の連絡・報告をすること

上記の①~④の過程を報告書や経過表で書類上で確認できるようにしておくべきです。

 

 

 

あらかじめ入院患者の退院を強制する場合があることを契約書や病院のガイドラインで示す場合、どのような内容が適切か、次回記載したいと思います。

 

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