弁護士 奧野舞のブログ

弁護士法人シティ総合法律事務所(http://www.city-lawoffice.com/)

【医業】【労働】過労死基準と研修医の過重労働

平成28年新潟市民病院に勤務していた女性医師が自殺したという出来事がありましたが、今年5月末、新潟労基署が過労が原因による死と認定しました。

この問題は、この病院に限った問題ではなく、他の病院における勤務医師にも関係することです。

労基署が行った是正勧告に対し、同病院長は下記の長時間労働対策を行うと発表しました。

①外来機能の見直し(一般外来の新規患者を紹介患者のみにする)、②三次救急へのシフト、③勤務体制の見直し(入院患者の治療をチーム体制にする、土日祝日に休める医師の増加、複数主治医制の促進、夜勤・当直医の見直し)、④患者への院内周知、です。

研修医の多くが、過労死基準に該当する労働を行っていても、それが表面化するまではなかなか労働環境の改善が図られないというケースも多いと思います。

労働問題が発生する前に、上記のように自院の中で出来うる対策を講じていくことが必要と考えます。

厚労省の過労死認定基準(脳・心臓疾患の認定基準)では、下記のように定められています。

⑴ 発症前1か月間ないし6カ月間にわたって、1か月あたりおおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなればなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まると評価できる。

⑵ 発症前1か月間におおむね100時間または発症前2カ月間ないし6カ月間にわたって、1か月あたりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合には、業務と発症との関連性が強いと評価できる。

上記の過労死認定基準は、過重労働に伴い労働者が疾病にかかった場合の損害賠償請求訴訟を行う場合に、業務と損害発生との相当因果関係を架橋する1つの重要な基準となります。

もし、過重労働が実際に存在した時期から6か月を過ぎた時点で疾病が発現したような場合についても、労働裁判に発展した場合には、過重労働の時間数、過重労働を最後に行っていた時期から発症までの具体的期間やその間の健康状態・就業状況など、個別具体的な事情から、過重労働が当該労働者にどのような損害を及ぼしたのかについて、実質に即した判断がなされるとともに、上記の過労死認定基準も参考にされるでしょう。

使用者側としては、従業員の残業時間管理において、より神経質に時間数に留意すべきです。

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【医業関連】<Q&A>病院内での暴力や暴言に対する対処②

<Q>

あるクリニックでは,とある患者が医師の治療方針に反感を持ち,来院時に医師・看護師に暴力を振るっただけでなく,帰り際,待合室で大声で「お前の病院のことを,ネットで散々拡散してやるからな!」と叫んで帰っていきました。

 

後日そのクリニックでは,暴行を働いた患者について警察に通報して対処し,刑事事件としての処分が確定しました。

その後,その患者は,警察に通報されたこと自体に腹を立て,怒りがおさまらない状況の中,インターネットの病院・クリニック口コミ掲示板に,「◎◎クリニックの院長と看護師はデキていて,院内でわいせつなことを毎日している,とんでもないところだ。」などという書き込みを行いました。

 

クリニックのスタッフは,たまたまこの書き込みを見つけて院長に報告しましたが,この件について再び警察に通報して毅然と対応すべきか,また逆恨みでエスカレートするくらいなら,口コミサイトの投稿の削除要請だけをして静観しておいた方がよいのか,対応に困っています。

このようなトラブルを将来に向けて回避するための対策は,考えられないでしょうか。

 

<A>

いくつか方法は考えられますが,

①110番通報の実績公表をすること,

②暴力暴言などに対する病院・クリニック内の規則を制定し,建物内に掲示したり,診療契約書に明記する,という方法があります。

 

①について

最近では,クリニックがインターネットの口コミサイトで根も葉もないことを投稿されたりといった事案も多く,こうした迷惑行為を全てを防ぎきれるわけではありません。

 

しかし,クリニックのホームページや広報誌で,過去の通報実績として,具体的に迷惑行為に対処したレポートを載せたり,「110番通報◎件,刑事告訴◎件,民事訴訟提起◎件・・・」といった情報を載せることで,当該クリニックが,迷惑行為などに適切・誠実に対応している信頼のおける医療機関であることをアピールする,ということも1つです。

 

近年,ホームページを充実させたり,広報誌を患者に配布したりと,それぞれのクリニック運営の工夫がなされている様子をよく見かけます。

こういった広報手段は,クリニックのスタッフ紹介や,クリニックの特徴などの情報を患者らにオープンにすることに加えて,不要なトラブル防止の姿勢を見せる場としても,活用の余地があると考えます。

 

②について

病院やクリニックには,当該施設の管理責任者として施設管理権がありますから,この管理権にもとづいて,暴言・暴力があった人に退去を求めることが可能です。

これをもとに,たとえば,暴言・暴力のいくつかの典型的なケースを例示して,「下記のよう暴力行為・暴言を行った方には,当院より強制的に退去を求めることができる。」・・・といったような院内規則を作り,待合室に掲示しておくことが考えられます。

これを行ったからといって,全ての迷惑行為を避けられるわけではないのかもしれませんが,クリニック等が迷惑行為に毅然と対応するときの「指針」になりますし,医師・看護師・その他スタッフも,迷わず適切な対応ができるという意味で,こういった院内規則をしっかり頭に入れておくことも必要であろうと思います。

 

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【医業】クリニック等の職場環境改善策

先日,とあるセミナーでマナー・接遇研修をされている会社の代表者の方にお会いしました。

お話を伺うと,病院やクリニック・福祉施設などで患者・入所者の対応にあたるスタッフの接遇・マナー研修を実施しているとのこと。

以前の記事にも書いたことがありますが,よほど特殊な分野の治療等が必要な場合でない限り,患者さんがクリニックを選ぶときに考えるのは,立地やクリニックの雰囲気,受診した際に嫌な思いをしなかったか,というところだと思います。

 

そういう意味では,医業分野でスタッフにマナー・接遇をしっかり学んでもらうことは,患者さんにまた来院してもらうためにもとっても大切なことだと思います。

 

しっかり来所者対応をしてもらうためにも,医業に従事するスタッフ自身が職場環境に満足してもらうような体制を作ることも大切です。

 

最近,厚労省のHPで発表された「医療分野の勤務環境改善マネジメントシステムに基づく医療機関の取組に対する支援の充実を図るための調査・研究」を目にしました。

https://iryou-kinmukankyou.mhlw.go.jp/information/itaku2016.html

 

この中に,勤務医師が職場に求める「取り組んでほしい勤務環境改善策」に関するアンケート調査結果があります。

 

この結果は,勤務医師に限り当てはまる話ではなく,医業経営の中の勤務環境改善に広く適用できる結果であると感じています。

 

クリニックなどでは従業員に当直勤務が求められていない場合も多いですが,

例えば,

・緊急時対応・オンコール対応に対する給与・手当などの処遇が充実しているか

年次有給休暇をはじめとする休暇の取得を促進しているか

・定期的な面談により,職員の事情や希望を把握し,可能な限りこれを尊重した配置や業務面の配慮をして,定着を図っているか

・多様な勤務形態(短時間勤務,短日勤務,交代制勤務)を活用しているか

・学童期の子供を有する職員への支援をしているか

・保育・介護サービス利用料の補助制度を実施しているか

・子育て・介護を含む生活面との両立支援・ワークライフバランスに関する相談窓口の設置や専門スタッフの配置を行っているか

・・・などなど,勤務医師に限った話ではなく,一般的な職場に求められている内容も多々あります。

 

私自身も,弁護士・社労士として就業規則の改訂作業に関わることもありますが,医業経営では女性従業員の割合が高いですから,今後は上記のような勤務環境改善の視点を盛り込んだ内容にしていくことを強く意識していこうと思っています。

 

 

 

 

 

 

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【医業】【労働】医師・看護師の時間外労働

厚生労働省の「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」という組織をご存知でしょうか。

 

最近,この検討会が,医師・看護師の短時間労働や時差勤務の導入といった勤務体系を見直し,外来医療の提供体制の最適化,医師業務の移管(タスク・シフティング)の推進など,多岐にわたる提言を行いました。

 

2016年10月に発足した組織だそうで,今後の医療を取り巻く環境の変化や患者のニーズの変化・多様化を踏まえて,医師・看護師等の働き方について検討する目的が掲げられています。

 

平成28年の厚生労働省委託事業として行われた調査・研究では,医師の時間外労働の割増賃金について,下記のアンケート結果が出ています。

 

時間外労働に対する手当については、

①「申告時間通り支払われている」が36.7%と最も多く,

他方で,

②「上限時間が決められており、それを上回る時間については支払われていない」が11.8%、

③「上司が時間外労働を認めた時以外は支払われない」が5.7%、

④「時間外労働時間については支払われていない」も8.2%という結果でした。

 

②から④を合計すると,約25%以上は,法律にのっとった割増賃金額が支払われているとはいえない,という結果になりました。

 

実際には,時間外労働の申告自体をしていない,申告していたとしても実際の労働時間とは整合していない,という医師も相当数いるのが現実であろうと思います。

 

将来的な人口推移を考えると,医療サービスを受ける人が増加する一方で,労働人口は減少してゆき,医療現場で第一線で働く人の負担が必然的に増え,現状のままでは医療現場から働き手が離れてゆくことが予想されます。

 

上記の検討会の提言にも含まれているように,医療従事者の業務負担の軽減だけでなく,医療従事者が医療現場から離れてしまうことのないよう,男女問わず,医療従事者の育児や介護に配慮する意味での短時間労働・時差勤務の導入・在宅労働・施設内保育所の整備などの支援は急務であろうと思います。

 

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【医業】医師やスタッフの態度×ホスピタリティ×来院数の話

医業経営コンサルタントの奧野です。

 

最近,某業界紙を読んでいて,普段から自分が感じていることと一致したので書いてみたいと思います。

 

インフォームドコンセントの話にも通じるところですが,「医師」=「専門家」と,「患者」=「素人」との間には,会話をしていても常に認識のギャップが生じることは避けられません。

 

それは,医学的な説明の内容そのものについてだけではなく,「その疾患を,どのくらい深刻なことだと思っているかどうか」ということについて,ギャップが生じます。

 

医師は,様々な疾患を診た経験から,「よくある。大したことじゃない。」とカテゴライズしてしまっていることも,患者からすれば,「いつ良くなるんだろう?本当に良くなるんだろうか?」と色々な想像の中で不安が大きくなってしまっている場合があります。

 

そんなときに,医師や看護師から「上から目線」で物を言われた日には,たまったものじゃありません。専門家の側からすれば,「そんなことぐらいでいちいち騒ぐなよ…大げさだな。」「こっちはちゃんと説明したんだから,そのとおりにして大人しく治療に専念すればいいのに…」という気持ちがあるのかもしれません。

そのように思うこと自体が問題なのではなく,伝え方・態度に問題があるということです。

 

自分の身体に不安を抱えた患者からすれば,高圧的な態度をとられれば嫌な気持ちになりますし,下手をすれば,別のところに行こうかな…,という気持ちにもなります。

 

私も,病院にかかるときには,「玄関を入ってから出ていくまで,不快な思いをしなかったか」という目線で,つい見てしまいます。

 

私が定期健診に行っているクリニックは,受付のスタッフ,検査時のスタッフ,医師自身の対応…すべてにおいて暖かくてにこやかで,来院者を安心・リラックスさせる工夫至るところに表れていました。

検査費用の比較をすると,他院の方が安いのですが,私は「このクリニックにお金を払いたい」と思うので,そこに行くようにしています。

ひとりひとりの患者に「ここにまた診てもらおう」と思える工夫は,医師の手腕・専門性も重要ですが,それ以外にも,「専門家が専門家であることに,悪い意味で慣れてしまわないように」することが大切だと思います。

 

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【医業】医業×労務×女性×助成金

医業経営コンサルタントの奧野です。

今日は,医業経営者が活用できそうな助成金を1つ紹介します。

厚労省助成金で,「特定求職者雇用開発助成金」といいます。

(※平成29年4月1日から,上記の名称に変更されました。)

 

この助成金は,高年齢者(60歳以上65歳未満),母子家庭の母,身体・知的障害者を,ハローワークや民間の職業紹介事業者の紹介により雇入れ,継続雇用が確実であると認められる場合に,受給することができるものです。

今日の記事では,母子家庭の母に着目して紹介したいと思います。

母子家庭の母は,なかなか正規雇用の仕事に就くことができず,その背景には,フルタイムで働く時間を確保できなかったり,業務上の急な対応に応ずることができなかったり,子どもの急病等でやむを得ず休む必要が出てしまうことなど複数のハードルがあり,こういった制約を含めて母子家庭の母を雇い働き続けてもらう体制が「整っている」という中小企業は少ないと思います。

今後,様々な企業が実践を繰り返して,女性活用,それも「男性と同じ条件で働ける」という方に限らず雇用し働き続けてもらう仕組みが出来上がっていくであろうと思いますが,業種によっても今すぐの着手が難しい現状もあると思います。

その点,クリニックや介護施設では,元々女性職員の数が相対的に多く,事務を中心とする業務であれば職務内容がマニュアル化しやすいですし,一人の人が営業開始から終了までずっと担当している必要がない業務もあります。

こうした事務スタッフは女性活用の場面としてすぐに使いやすく,母子家庭の母で,「午前中3時間~4時間の短時間勤務であれば可能」という方は少なくありません。

上記の助成金も活用すれば,助成対象期間である1年間で,短時間勤務以外の場合は60万円(30万円を年2回支給),短時間勤務の方を雇入れる場合は40万円(20万円を年2回支給)受給できる可能性があります。

もちろん,助成対象期間を越えて雇用を継続することが大前提の助成金ですので,どのような人を雇い入れるかというところは,各事業主がしっかりと考えた上で決めていただく必要があります。

母親として子どものためにどうしても時間を割かなければならず,能力があるのにその力が発揮できず,低所得のまま生活をしている方も沢山います。

医業経営においては,事業所の看板となりうる女性従業員の活躍が特に求められる分野といっても過言ではないと思います

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【医業】【労務管理】医業経営における労務管理について

学生時代に労働法を学んでいたことから,労務問題に興味を持つようになり,弁護士業務のかたわら,社労士登録も行っていましたが,この度「医業経営コンサルタント」という認定資格を取得し,医業経営に特化したサポートが出来るように準備を進めております。

そうはいっても,私自身が病院等の勤務経験があるわけではありません。

ただし,身近にクリニックの開業者がいるので,医療法人の承継問題や開業までの準備活動,労務管理の問題についてはなじみがあります。

医業経営者においては,診療分野にもよりますが,医療事故発生時のリスクという大きな要素にかぎらず,日常的には,患者対応や職員の労働環境の健全化などが,必ず問題となってきます。

患者への対応や物品管理,緊急時の連絡体制の整備など,組織内でマニュアル化できるところは出来る限り「仕組み」自体を作ってしまい,それを定期的な研修で共有・実践する取り組みを行う時間を確保する,それが当たり前に出来ているかどうかで,医療機関等のリスクに対する強さが変わってきます。


次回から,従業員の時間外労働の問題,女性が多い就業環境ならではのセクハラ対策,カルテの取扱に関する問題などに触れてみたいと思います。

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